月と春

やさしい月明かりがさし込む頃に。

3月1日

わたし達のためだって厳格に守られてきた膝下長めのスカート。夏にふわふわと胸元にたゆむスカーフは、結ぶのがなかなかにむずかしかったり…部活では先生がもってきてくれるお菓子やパンの差し入れがとぅっても嬉しくて。暖房傍の井戸端会議は、ちょっぴりいけないことをしてるキブン。課題の多さに文句を言ったり、終わらない終わらない~っと言いながらみんなで放課後勉強会。廊下のステンドグラスに光が射し込んで、ゆらりゆらり、と綺麗な光の粒たちが游ぶ時間……


今はもう取り戻せない、平凡だけど、星の瞬きのごとく美しく過ぎ去った愛おしき少女の証。


女子高校生というのは不思議な存在。

JKってだけでもう無敵になれたキブンなのに、子どもでもない、大人でもない、そんな曖昧さにゆらゆらと揺れている。"学校"という箱庭の中で守られて、俗世間のことなんて知らんぷりできた、純粋無垢で無邪気な"少女" の時間を生きる生き物……魅力的で神秘的な、一種の神格化を果たしたクリーチャー。


しかし、その命は短命なのだ。


訪れるべき日、3月1日……卒業。
今日わたしは、"女子高校生"の輪郭を形作るように存在していた、あの不思議なベールを脱ぎ、その命を断つのである。いや、むしろそのベールを自ら破く、に近いのかもしれない。これはきっと、少女の羽化なのだから。


"学校"という名の箱庭を開けた先には、どんな世界が広がっているのだろう…飛び抜けた先には今まで知らんぷりしてきたことにも、正面から向き合わなければならないんだろうな。そうして、今まで"学校"の中で統一されつづけてきた白い絵には、いろんな色が重なっていって、多様な色味と深みをもっていくのだろう、!どんな絵にするかはわたし次第で、どんな絵になろうとも、味のあるわたしの愛おしい人生。


命短し進めよ乙女、!!


少女、を目に見えるものに具現化していたあの制服と、花の煌めきと言うべき儚く貴い日々を、ほんのり薄桃色に色づき始めた初々しい桜の蕾に閉じ込めて……



さよなら、少女。